【芸大出身者に質問-現在のご職業は何ですか?】1.美術の先生

取材日2019-11-15@Kanazawa

取材の経緯

 私は大阪芸大出身ではありませんが、知人に大阪芸大出身の方がいて、その方が今回の定例会に参加しないかいと誘ってくださいましたので、参加させていただきました。そして、取材をさせていただいたという経緯です。

 私は今商業写真の仕事をしていますが、学校へは行かず先生に弟子入りをして学ばせていただきました。自分の先生が日本大学藝術学部だったこともあり芸術大学というものに憧れを抱いているというのもあります。しかしながら、例えば私が芸術大学に入学できて卒業できたとして、今の職業に就いていたかといと、それはわかりません。実際に芸大に入ったり卒業をした方に直接お話を聴けるというチャンスはそうそうないので、ここに書こうと思いました。

大阪芸大時代の仲間との定例会を取材

 今回は、石川県出身の九谷焼作家である山下一三(いちぞう)氏のアトリエ「磁器工房白象」に大阪芸大時代に知り合った仲間が四年に一度集まり、山下氏の作品を鑑賞したり金沢見物をしたりして過ごす定例会に参加させていただき、その時に取材もさせていただきました。

 芸術大学の出身者が全員アーティストになるとは限らないが、芸大出身者が現在はどのような職業で活躍をしているのかということは個人にとても興味があります。

 また、美術や芸術というもので飯を食うのは難しく厳しいというのはわかるのですが現実的な職業もあることは確かです。進路に悩む方の参考になれば、と思います。

今回紹介するのは学校教諭

 山下一三氏とご婦人を含め計8名の中から、まずは現在、佐世保市小佐々中学校教諭である出口知利先生を紹介します。

出口知利氏の生い立ち

 長崎県の小さな島で生まれ育ち、海の向こうを眺めて外国の広く美しい世界をいつも夢に描いていた。中学生の時は何かしらのアーティストになれれば良いなと漠然と考えていた。

 高校生になり実家が材木屋だった為、親のために建築関係の職業に就こうと思っていたが、高校時代に勉強をしなかったので理系の進学は現実的に厳しかった。美術部ではあったが何もせず絵もロクに描かず、ギター弾いて遊んでばかりいた。最終的に高校三年生の時、学校の先生になるから芸術大学へ進学させてほしいと親を説得した。やはり中学の時になんとなく思い描いたアーティストという夢は捨てられなかった。

 大学入試の課題では、普通に上手な絵を描くよりもインパクトのあるサイケデリックアートを意識した作品を提出し合格した。

 大阪芸大時代は、油絵を専攻。

 大学の時にいろいろやったが、もうこれ以上親不孝はできないと思い3年生の頃に教員試験の勉強をして教員採用試験に現役合格をした。

黒板画を描いたキッカケ

 20年前自分自身が絵画の技術向上の練習ためにチョークで絵を描いたのがきっかけだそうです。人に見られることで緊張感があり失敗できないことが自分の腕を試す良いチャンスだと思い毎月のように絵を描いては消していたそうです。当時はチョークで書いていたのですが、チョークは色が少ないので、色が鮮やかな画材に変えたそうです。

 美術は授業が少なく、生徒と会う時間が他の教科の先生に比べて少ないのですが、その絵を見た生徒が注目するようになり、生徒とコミュニケーションがとれるようになり会話のきっかけにもなりやって良かったとの事です。

黒板画の素材

 素材は、ガッシュ(不透明水彩絵の具)といい、ポスターカラーですね。いわゆる水彩絵の具なので消すのも簡単だし色もそれなりに鮮やかに表現できます。

絵のスタイル

 パノラマの黒板にポスターカラーで絵を描き、その上にレタリング文字の詩をそえて、見た人を圧倒させます。実際に、作品を見ていただいたほうが早いですね。ご覧ください。

圧巻のパノラマ絵画

制作期間は約5日

 全部手書きですから、制作期間はどのくらいでしょうかと尋ねると、「最低でも五日は必要です。」とのことです。

 もし、自分が小佐々中学校を訪れたとしてスリッパを履くときにこの絵画を見たら感激するだろうと思います。

作品は何を参考に?

 作品は、素敵な写真からインスピレーションを受けることもあるし、頭の中のイメージだけで仕上げてしまうこともあるとのことです。詩は有名な方のものを引用することもあるし、オリジナルのものもあります。綺麗なレタリング文字は絵画のイメージを邪魔しないように配置に工夫があります。さすが美術の先生ですよね。

 絵を描くと言うのは頭を使うだけでなく同じ姿勢を維持して絵や文字の品質を保たなければなりませんから肉体的な負荷も相当なはずです。見ては描き、見ては描きを繰り返す、肉体的にも大変な作業と言えます。

絵画と詩

 絵だけでは、自分が伝えたい事が伝わりにくいというのがある。「ただの綺麗な絵ですね、だからどうしたの?」って思いません?

インタビューより

 だから僕が伝えたいことを、絵画の上に添えたんです。詩は、谷川俊太郎さんやまど・みちおさんなどの素敵な詩を書いていましたが、自分がイメージした絵にマッチした詩がだんだんみつからなくなり、ふと中高の頃に自分が詩を書いていたことを思い出し自分で詩を考えて書くようになったそうです。

 メッセージをより明確に伝えるために絵と詩がオーバーラップして、相乗効果を得られると考え現在のスタイルになったそうです。

ほぼ毎月新しい絵画

 この絵画、5日以上もかけて描いても定期的に描き変えるそうなので1枚の絵は20日から60日ほどの期間しか鑑賞できないのです。学校教諭の業務をこなしながらこのような事をできる先生はなかなかいらっしゃらないと思います。

 ある有名なテレビ番組でも取材され、地元では大変有名なんだそうです。

20年以上描き続けている

 作品は、約200作品になるそうです。

 今回、出口先生からお借りした写真が16作品と本当に一部の作品ですが、これからも欠かさずポスターカラーで絵を描き続けるそうです。

 今後の黒板画も楽しみですね!

今月の黒板画

 出口先生の過去の作品は、小佐々中学校のHPで閲覧できます。

オブジェクト移動

めざましテレビ キラビトで二回も紹介されました!

※2021年2月更新情報です。

2017年9月12日(火) 05:25〜8:00 放送

2021年2月5日(金) 05:25〜8:00 放送

新しい作品はこちら

※2021年2月更新情報です。

作家名 出口 知利 教諭

銀塩写真のような質感の骨格の絵。ぼくにスポットライトが当たり、とても現像的。

作家名 出口 知利 教諭

熊本県の「おこしきかいがん」は干潮と夕陽が重なる絶景が見られる日本屈指の景勝地です。私も見て見たいなあ。

作家名 出口 知利 教諭

水面の水鳥と、秋の紅葉。ブルーの印象が多いのに、こんなにカラフルにオシャレに彩ることができるセンス、素敵ですね。

作家名 出口 知利 教諭

とにかくかわいいペンギン。ペンギンって、名前も見た目も可愛いね!

旭山動物園のペンギンは、たしかに空を飛んでいるように見えます。ペンギンって鳥類なんだと感じた瞬間でした。

様々なジャンルの絵と詩

感受性豊かな中学生。彼らの心に響く絵画を製作し続ける出口教諭。

小左々中学校のみなさんが、羨ましいですね。

ある特定の期間しか見られない手書きの作品を、間近で見ることができるんですから。

消してしまう時、どんな気持ちなのでしょう。なんだか、勿体無いなあと思います。とはいえ、とっておくことができません。

そのかわり、また、素敵な作品に変化していくのです。サンドアートほどではないにしても、儚い期間の作品なのです。

趣味は音楽

 石川県金沢市片町にある、「フォーク酒バーばんけん」にてギターと歌を披露。

 山下一三氏もたまに来ているそうです。

 このお店、来たお客さんがステージで演奏して歌を歌えるんです。楽器も貸してもらえます。また、「お客様の中に、ギターを弾いてくださる方はいらっしゃいませんか?」といったジャムセッションもできるそうです。面白いですね。

撮影:Lacofilms / 出口 知利教諭

出口教諭からのメッセージ

 自分は、学校の先生が向いてるなんて考えもしませんでしたが、教師になって子どもたちの純粋な心や真っ直ぐな気持ちに接して、自分の方が人間として学ぶ事が多いと感じさせられます。

 人生の中で、一番多感で感受性が豊かな中学生と同じ時を過ごせることを実に幸福であると思っています。

撮影:Lacofilms / 出口 知利教諭

 現在の職業は、自分自身が想い描いていたアーティストというものとは実際に違います。しかし絵画と詩の融合作品を僕は自分の生徒たちやその保護者の方たちに見てもらい喜ばれています。「素敵な絵と詩」ですねなんてお世辞かもしれないけれど、直接声をかけてもらえる事が本当に嬉しいのです。僕は今、幸せを生きています。

コメント